天神崎の臨海実習:生徒主体の授業デザイン

1999年4月4日 「天神崎の自然を大切にする会」の米本憲市さんに天神崎を案内していただいた

ナショナルトラスト運動・天神崎、その名を知ってはいた。白浜町にある京都大学瀬戸臨海実験所には数回足を運んだことがある。けれど、隣接する田辺市の天神崎に立ち寄ったことはなかった。

1994年から当時勤務していた大冠高校の生物Ⅱ受講者を対象に、夏に一度の臨海実習を実施していた。行き先は和歌山市加太の城ヶ崎だった、大阪からの高速道路は海南湯浅道路の終点・湯浅で終わっていた。そこから南は国道42号線しかなかった。高速道路が湯浅から御坊まで延伸された時に、バスでの日帰り圏内に天神崎が入ってきたのだった。

パンフレットを生徒人数分いただき、潮間帯の主な生物の種名を教えていただいた。個々の生物はスライドフィルムを使用し撮影した。1学期最初の授業で年間の実習計画を生徒に知らせ、パンフレットを渡してナショナルトラスト運動の経緯を説明し、現地の概要と潮間帯の生物はスライドをプロジェクターで映写して紹介した。

記録用のカメラやスケッチ・採集のための用具は各自で使用する物を持参するようにした。カメラ(当時はフィルムカメラ)は安価で出回っており、普及率が高い。実習の内容を文化祭で各自のテーマでポスター発表すること、そのサイズは模造紙1枚とすることとした。事前の学習で得た情報を理解・活用すること、できるだけ違った視点をもってポスターを作成するように生徒に伝えた。


1999年5月25日 生物Ⅱ受講生 須磨海浜水族園で海の生物について事前学習

潮間帯の生物の分類的地位を理解するために、生物IIの教科書で無脊椎動物と藻類の分類学を先に講義し、1学期中間テストの最終日に須磨海浜水族園で生態展示を見学した。JR高槻からJR須磨まで学生団体乗車券を手配して往復、この当時須磨海浜公園駅はまだなかった。

このような自然誌と分類学の学習が暗記中心にならないように、生徒たちに自由にテーマを選定させ、それについてのポスターを作成することを課した。サイズは模造紙4分の1で、写真・イラストを使用したグラフィカルなものを推奨した。各自の作品を生物講義室に全て展示して、互いに刺激して無脊椎動物の多様性・美しさ、くわえてポスター作成の手段を学べるように配慮した。


1999年7月13日 生物Ⅱ受講生 天神崎日帰り実習

わたしは、実習当日水中カメラで水面下をスノーケリングで撮影し、それをカラープリンタで A4サイズに出力して、実験室の外側廊下の壁面に21枚展示した。天神崎の海中にはミドリイシ科・ムカシサンゴ科・キクメイシ科・キサンゴ科・サザナミサンゴ科の造礁サンゴが生息していた。

ミドリイシ科のサンゴ

サザナミサンゴ科のサンゴ

サンゴイソギンチャク


1999年9月19日 文化祭 生物Ⅱ受講生 天神崎実習の成果をポスター発表

生徒が作成したポスターのテーマ別の例数は、天神崎全体の自然誌(2)、潮間帯生物の自然誌(15件)、天神崎への日帰り実習そのもの(1)、潮間帯での実習の手引き(1)、潮間帯の生物の調理法(マツバガイの味噌汁)(1)、潮間帯生物の帯状分布(3)、生物群集の構造と異種個体群間の捕食・競争関係であった。生物群集内での多種の共存を解説するよりも、多様な自然をそのままに表現していた。3人や2人の共同作成ポスターもあり、フジツボ、カメノテ、貝殻の実物展示もあった。

写真を引き延ばして展示したもの、カラーコピーを使用したもの、水彩画をベースにしたもの、イラストをベースにしたもの、クレヨンによる大作など、その多様性は高かった。制作は2学期の始業式から文化祭までの3週間の期間で行い、それまでの生物IIの授業をこのポスター作成に当てたが、それでも時間不足だったようだ。展示は実験室のテーブルの上(平面展示)と壁面上(壁面展示)を各自が自由に選択して行った。

文化祭の当日、生徒たちは保護者や友人を展示会場の生物実験室に連れてきて、各自のポスターの解説をしていた。日頃の学習成果の公開が自然にできたと感じた。さらにその様子を天神崎の自然を大切にする会の会誌「天神崎だより」で会員の方々へ紹介していただいた。

小学校にも天神崎の臨海実習が波及

大冠高校の臨海実習に、桜台小学校の先生が同行されていた。小学校の児童にもこのような体験をさせたいと、遠足の行き先を天神崎に変えて下さった。高校教員の私が事前学習と現地案内に同行して、桜台小学校での天神崎臨海実習は2001年に実現した。この実習は2011年の東日本本大震災の年まで絶えることなく実施された。そして、毎回現地に足を運んでいた私は天神崎の自然を大切にする会の評議員となり、いままで生き物観察会の解説をすることとなった。

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